募集

研究グループの存在意義

「動物を観察しているとなんか面白いなぁ〜」という牧歌的な研究を続けてきて、運良く、研究グループを構えることができました。「心ある人の支えの中で〜♪」(ミスチル)という感じです。で、PIと呼ばれる立場になってみると、以前の僕と同じような興味を持っている学生・研究員の応援するのがミッションなのではないかと感じるようになっています。ゲノムの情報があふれ、AIがなんでも教えてくれて、生き物を見なくともパソコンに向かっていれば生物の研究ができるようになった(そして、いろいろなことを明らかにできるようになっている)時代です。それでも、動物のありのままの姿・振る舞いを、自ら足を運び、汗をかき、五感を使って観察する重要性は変わりません。サンプルを取るために動物を殺してしまう必要はありません。学生・研究者が、動物行動学、行動生態学、進化生物学の研究を粛々と行うことができる環境を維持したいと考えています。

当研究グループに進学希望の学生

総研大に所属する大学院生の博士研究指導をしています。時間、エネルギー、研究費に限界があるので、
適当に手を抜いて各自の自立性・主体性を尊重して指導していこうと思っています。指導を希望する学生は、総研大に入学して、僕を指導教員に選ぶのが一番の早道です。詳しくは、研究グループのホームページをご覧になったうえで、僕まで連絡をください。大学院でどんなことができるのか、どんなことができないのか。具体的な相談にのることができるでしょう。

総合研究大学院大学・統合進化科学コースの入試は、夏(8月)と冬(1〜2月)の二回行われます。当コースでは、大学院生をサポートする数多くの制度を設けています。たとえば博士研究を行うことに対するRA制度による授業料相当の経済的サポート、主指導教官一名と副指導教官二名(以上)による複数指導体制などです。詳しくは、コースのサイトをみていただくか、入試説明会・オープンキャンパスにご参加ください。入試説明会・オープンキャンパスには、毎年、日本全国から学部生・大学院生が参加しています。

本研究グループに進学を希望する学生は、事前に沓掛までコンタクトを取ってみてください(メールが確実です)。とくに、博士後期課程(いわゆる博士課程)から進学希望の方は、入試前に教員と研究の相談をすることが必要です。その際、お願いがあります。毎年、多くの学生から、受験・進学の相談を受けています。オープンキャンパスに参加される以外の場合、相談はまずオンラインでお受けし、次の段階としてキャンパスへ訪問いただくことを考えています。というのも、研究室に訪問していただく場合には、十分な時間をとって話し合いをするようにしています。学生の相談に乗ることは実りのある時間の使い方だと感じていますが、数多くの業務があるなか、まとまった時間を確保することが段々難しくなってきました。また、葉山までお越しいただいたのに、研究テーマが明らかにミスマッチであったりする場合もありました。そのようなミスマッチを避けることはお互いにとって重要なことだと思っています。ご理解いただければ幸いです。

本グループの特徴 動物行動学、行動生態学、進化生態学などを専門とする他の研究室と比較して、本研究グループの特徴は、
(1) 一般性や理論的背景を重視している点、
(2) 脊椎動物を対象にした研究が行われている点、
(3) 時間がかかる研究、長期研究を重視している点、
(4) 隣接分野の知見を取り入れた研究スタイルが可能であること、
の4点だと思います。

(1)自分の研究対象のみならず、動物や生物全体を見渡して、一般的に成り立つ原理探求・仮説検証という考え方を身につけてもらうことが目的です。そうすることによって、自分の研究していることが、進化生物学のなかでどのような位置を占めているのか、どの程度、一般性のあることなのか、ということを意識することができます。このような研究姿勢は、ナチュラルヒストリー、博物学、研究対象への愛着と相反する研究姿勢ではありません。一般性をふまえた上で、それぞれの生物がもつ独自性を探求してもらいたいと思っています。また、適応進化の理論を用いる行動生態学は、動物を理解する一つのアプローチに過ぎません。行動生態学以外にも、物理学的、情報学、認知科学、社会学、その他様々なアプローチがあるでしょう。そのような新しいアプローチをしたい学生も歓迎しています。

(2)本研究グループでは、脊椎動物の研究を行うことができる研究環境を目指しています。無脊椎動物と比較して、脊椎動物の研究は、サンプルサイズが集めにくい、実験が難しい、生活史が長く進化的な考察をしにくいなどの点があります。その一方、複雑な繁殖システム・社会構造をもつ脊椎動物でしか明らかにできないテーマというのもたくさんあります。この研究グループでは、脊椎動物の研究に取り組む大学院生を応援したいと考えています。なお、無脊椎動物に関する研究を行なうことも不可能ではありませんが、他に優れた研究室がありますので、そちらに進学したほうがいいと思っています。

(3)行動生態学の研究では、長い時間かけて、じっくりと一つの動物・テーマに取り組まないと成果が出ないものがあります。たとえば、(2)で述べたように、脊椎動物の研究は長い時間を必要とします。当コースは5年一貫ということで、前期課程入学者全員が博士後期課程に進学するものとして研究計画を組み立て、指導を行います。成果主義の世の中にあって時間のかかる研究は敬遠されがちですが、5年間ひとつのテーマに取り込むことによって大きな研究を仕上げてほしいと思っています。ただし、そのように息の長い研究はリスキーでもあります。そのため、複数の研究テーマを同時進行で進めることが望ましいと考えています。とくに、短期的にある程度成果が見込まれる研究を行えば、ひとつの研究を完結させるプロセス(発案→文献調査→仮説→データ収集→分析→学会・論文発表→研究成果の宣伝)を早いうちに体験することができます。後期課程から入学した場合、基本的に3年間で完成する研究計画を立ててもらいます。しかし、修士課程からのテーマを変える場合、博士を修了するまで、3年よりも長い期間がかかると考えておいたほうがいいでしょう。

(4)本研究グループが所属する統合進化科学コースでは、研究グループ間の垣根を低くして、異分野融合を促進する環境づくりを行っています。そのため、たとえば当分野で博士研究を行う大学院生の場合、分子進化学、集団遺伝学、数理生物学、神経行動学などの隣接分野の手法を取り入れた学際的研究を行うことができるかもしれません。このように異分野をまたがる研究を行うためには、人一倍の努力が必要になるでしょうが、新しいことに挑戦する意欲的な大学院生が、研究を発展させることができる環境を維持したいと思っています。

テーマの選び方 研究テーマについては、自発的な提案を歓迎します。実現可能性が低いと考えられるテーマは、再考、もしくは変更してもらいます。たとえば、ラボにて飼育できる動物に制限がありますし、研究費にも限りがあります。
研究テーマを選ぶ際には、以下の三つの要素が決まっていれば、研究テーマを具体化することができるでしょう(→以降は次に考えるべき事項です)。

研究対象

「この動物を研究したい」という研究対象がある
例: 人間を研究したい! 鳥の研究をしたい! カエルが大好き!
→ どこでできるか(野外? 飼育?)、どんなテーマが面白い? 何が分っていない?

研究テーマ

本・教科書を読んで、「このテーマが一番興味ある!」と感じる
例: 性淘汰って不思議だなぁ、利他行動についてもっと知りたい
→ 何でどうやって研究する?

研究アプローチ

絶対に野外調査をしたい、至近的な背景と合わせた仕事をしたい などなど
例: 単純な行動をテーマに選び、先々は物質的な背景(遺伝子、ホルモンなど)も研究していきたい
→ どの種で何をやる?

自分でテーマが思いつかないという学生さんもいると思いますが、研究の現場を経験していないので無理もないことだと思います。図鑑や関連書籍などを読んでみて、興味があるテーマを探してみてください。それでも見つからない場合、もしくは学生が提案するテーマの実現可能性が低い場合、大学院に入学後に、教員からいくつかのテーマを提示しますので、そのなかから興味を持てそうなものを選び、発展させていくこともできるでしょう。このようなテーマの決め方には、「大学院生が自由な発想で研究をできない」と否定的に考えるひともいるかもしれませんが、研究テーマが絞れている、研究のノウハウを効率的に学ぶことができるなど、良い点もあると感じています。
関連図書 動物行動学、行動生態学を研究したい方には、以下の教科書を紹介しています。学術書は絶版になることが多いので、図書館や古本屋で探してみてください。

進化・行動生態学


生き物の進化ゲーム:進化生態学最前線 生物の不思議を解く(酒井ら著、共立出版)
大学生レベルの教科書です。前者は読み物風で、動物行動学からの研究例が多く、後者は植物の研究例も入っています。
行動生態学(沓掛・古賀編、共立出版)
この分野の基本的な理論を一通り解説しました。大学生には少し難しいかもしれませんが、読んでみてください。
行動生態学(デイビス他、共立出版)
世界中に読まれている教科書です。イラストが多く、理解しやすいと思います。構成に、若干保守性を感じますが(英国流?)、現在、日本語で読める最良の教科書です。読み込むといいでしょう。
動物行動学(オルコック・ルーベンステイン)
この教科書も世界中で用いられています。図は写真が多く、分かりやすいと思います。


行動観察


行動研究入門:動物行動の観察から解析まで(マーティン・ベイトソン著、東海大学出版会)
動物の行動観察を行うのであれば、まず最初に読むべき本です。とくに第4章はよく理解しておくといいでしょう。
動物行動の観察入門-計画から解析まで (ドーキンス、白楊社)
行動観察法がわかりやすいく解説されています。読みやすいと思います。

人間行動生態学・進化人類学・霊長類学


進化と人間行動(長谷川・長谷川著、東京大学出版会)
人間行動を進化的に理解する人間行動生態学、進化心理学の平易な教科書です。行動生態学の知見も多く含まれています。
ヒトはどのように進化してきたか(ボイド・シルク著、ミネルヴァ書房)
世界中で用いられている、有名な教科書です。進化人類学、自然人類学の基礎を概観できる良書です。すでに絶版です。
卒業生の進路 現在までに博士課程の修了生は大学・研究所での教員やポスドク、小学校の先生、PDは大学の教員・ポスドク、NPOの研究者などの職についています。
Q & A

Q - 大学院生はどのような生活をしていますか?

A – このグループにはコアタイムはありません。各自がフィールドに出たり、出張していたりと、リズムがバラバラです。在宅勤務もメインにしている院生、研究員もいます。このように、毎日の活動は、各自で管理してもらうことにしています。大学院生は首都圏の各地、または遠方に住んでいる人も多く、逗子・葉山・横須賀など大学近辺に住む必要はとくにありません(ただし、動物を飼育して研究したい場合には、動物の世話があるので、近隣に住んだ方が便利でしょう)。葉山キャンパスには宿泊施設があり(注:寮ではありません)、学生は千円台で宿泊できます。また、ラボのオンラインゼミには、基本的に全員参加としています。が、フィールドの予定がある人は、フィールド優先にしてもらっています。

Q - 研究にはどのくらいお金が必要ですか?

A -フィールドワークを行うためには、旅費、滞在費が必要です。学会に行くのも同様ですし、学会年会費、参加費もかかります。また、実験室での作業には、試薬、動物飼育などに研究費が必要です。現時点では、これら研究に関わる費用は、私の研究費で全て支出しています(学会年会費を除く)。ただし、この体制は、研究費があり、メンバー数が少ないときにのみできることであり、今後、変わる可能性もありますので、ご了承ください。また、JSPSの研究員となった学生、研究費を自分で取得した学生は、それらの研究費で研究活動を設計してもらっています。

Q - 教員との話し合いは定期に行っていますか?

A -進捗の把握のために、ゼミでの発表、議論を重視しています。くわえて、院生が自由な時間に、研究の内容のみならず、実務的なことについて相談しています(対面であれば日時を調整して、オンラインであれば多くの場合即日)。相談の頻度は、各人の研究進攻具合・研究スタイル(何でも相談~大事な点だけ相談)によって違います。また、コミュニケーション不足だと、先々、お互いに困ったことになるので、こまめに「ほう・れん・そう」をしてもらうよう(特に、都合の悪い事を)お願いしています。

Q - 副指導体制というのはどういうものですか?

A - 私の研究(動物行動学・行動生態学の実証研究)では扱うことができない研究アプローチを併用したい学生にいいシステムだと思っており、積極的に活用することを推奨しています。たとえば、分子実験(内分泌測定、遺伝子実験)や数理モデルの指導はできないので、他の教員が指導しています。

Q - 修士で出ることは可能ですか?

A - 可能です。が、「D1~D2で就職活動をして、D3に進学しないで就職」というスケジュールは、私のグループとは相性がよくないでしょう。というのも、五年一貫を前提としたカリキュラムが組まれているので、研究を開始する前、もしくは研究を始めたばかりで成果をまとめることになるので、修士要件に到達するかどうかわかりません。D3以降に就職が決まり、遡って修士を取得して退学するという例が多いと思います。

Q - 院生はどのくらい国内学会に参加していますか?

A - on-job-trainingが大事だと思っているので、研究でなんらかの成果が出ているのであれば、積極的に学会で発表することを勧めています。コロナの間を除くと、院生は、毎年、だいたい1-3回、学会発表をしています。

Q - 院生は国際学会に参加できますか?

A - 五年一貫で入った院生は2回、後期課程から入った院生は1~2回、参加しています。旅費は、専攻や私の研究費から、基本的に全額のサポートしています。

Q - どんな技術が身につきますか?

A - 研究テーマによって、身に付けることができる技術は変わります。が、どんな院生にも共通して、論理的な思考力、発表力、文章力、統計力、科学英語力を身につけてもらうように指導をしたいと思っています。また、他力依存でなく、自主性をもって研究(のみならず自分の人生)を進めてもらうことを期待しています。

Q - どのくらいの質・量の研究をしたら、博士論文を提出できますか?

A – コース要件として、(副論文が合格していて)国際査読付き雑誌に第一著者として一本というルールです。このルールとは別に、博士論文の目標として「前期5年やるなら投稿論文5本、後期3年やるなら3本」と私は考えています。ただし、質の高い投稿論文があれば、本数にこだわる必要はありません。実際に、この目標に到達していなくとも博士論文をまとめた例もあります。

他大の学生でも、研究の方向性が一致すれば、指導教員の承諾のもと、委託という形で、指導・共同研究を行っています。興味がある方はご相談ください。

博士研究者

本研究グループでは、日本学術振興会・特別研究員などの博士研究員の受け入れを行っています。研究テーマ・分類群を限定することなく、幅広い専門・関連分野の研究者が集える環境構築を目指しています。
ポスドク・研究補助員を雇用できるようなグラントが当たったらJREC-IN、関連MLなどに公募のお知らせを出しています。このホームページでもお知らせいたします。

客員・連携研究員制度について

RCIESでは客員・連携研究員の制度を設けています。学外の研究者が、研究グループのメンバーと有機的に交流・共同研究していただく制度です。たとえば、学外の方が、葉山の施設を頻繁に利用する場合、研究プロジェクトのメンバーになる場合には、客員・連携研究員になっていただいたほうが好都合です。他に所属先がなく、週1日以上、葉山キャンパスにおいて研究活動に従事する方に「総研大・RCIES・客員研究員」という身分を付与しています(科研費の申請資格あり)。連携研究員は他に所属を持つ方のための制度です(科研費の申請資格なし)。興味をお持ちの方は、沓掛までご相談ください。

共同研究者

興味があったらご連絡ください。とくにバックグラウンドが異なっている方と相補的に研究を進めることができればいいと思っています。最近、自分は実は文系なのでは?と思い始めています(思い返せば、心当たりがあります)。人文社会系の方との共同作業にも興味を持っています。共同研究をご希望の方は、メールにてご相談ください。

ボランティア

研究のお手伝いをしてくださる方を、随時、募集しています。将来、動物行動の研究者を志望する方であれば、研究の現場を知ることができるので、一石二鳥だと思います。基本的に肉体労働、根気のいる作業です。動物が好きで、研究に興味があり、長期間していただける方を歓迎します。研究費がある場合には、アルバイトとなることもあります。