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2024年8月5日 初めてのフィールド調査 in 北極Part③(石原)

 初めてのタグの回収から2週間がたち、1か月間のフィールド調査の3分の2が過ぎていました。その時点で、3個体分のデータの回収が完了していました。回収率は、3/4と、決して低いわけでは無い(はず)です。ですが、あいにくの天候でボートが出せない日々が続き、さらにはアザラシが、捕獲の為の網をジャンプしてすり抜けるという、長年北極のアザラシを研究されてきたKitさん達ですら、ほとんど見ないという出来事が連続して起こり、アザラシの捕獲が難航していました。アザラシが捕獲できないことには、タグを装着できませんし、データも回収できません。そして依然、アザラシがフィヨルドの外まで泳ぎ出て、フィヨルドの外で漂着してしまったタグ(前回のブログ参照)は、回収の際の手がかりとなる位置情報の発信も途切れたままでした。つまり、このタグの回収は絶望的です。

 5月23日、スバールバル諸島を出国する1週間前、強い吹雪と荒波の中、最後のアザラシの捕獲に向かいました。この日も、最大瞬間風速は12 mを記録しており、通常であれば到底ボートが出せない、危険な状態でした。ですが、タグの回収にかかる時間を考えると、この日が、アザラシの捕獲にチャレンジできる最後の日でした。そこでKitさん達は、少しでも多くデータを持って帰らしてあげたいと、海に出る決断を出してくださいました。他の研究者たちが、海には出ずデスクワークに励んでいる中、私達は、晴れの日とは打って変わって、吹雪で薄暗くなり、陰気な雰囲気が漂っている船着き場へ向かいました。風が強く波が高い程、アザラシを捕まえるボートは不安定になり、アザラシをボートに引き上げる為に必要な力も必然的に大きくなります。海のコンディションがいい時であっても、アザラシを捕まえるのは難しいのに、こんな天候で大丈夫なんだろうか、と不安に感じていたのも束の間。なんと、Christianさんと渡辺先生が、ものの数十分で捕まえてくださったのです!これで4個体目だ!と大喜びしていると、なんとさらなる幸運が舞い込んできました。

 研究室に戻り、パソコンを立ち上げると、これまで20日間以上、なんの音沙汰も無かった、フィヨルドの外で漂着していたタグから、位置情報が発信されていたのです!まさに青天の霹靂。しかし、幸運はこれだけでは終わりませんでした。

 フィヨルドの外にボートを出すには、フィヨルド内の風速で6 m以下、そしてもちろん晴天である必要があります。フィヨルドの外は通常、内よりも風が強くなる傾向があるからです。出国の3日前の27日、祈るようにボートに乗り、いざフィヨルド内からフィヨルド外へと向かった時、びっくりするほど静かな海面が広がっていました。太陽が反射してきらきら輝いている海面はとても美しく、「これならきっと、タグが回収できる!」と確信に似た期待が高まっていました。しかし、タグの回収に必要不可欠な、タグからの発信音が1つも聞こえず、捜索は難航しました。晴天とはいっても、ここは北極。捜索開始から1時間、ボートに乗ってから2時間ほどが経ったときには、手足は凍え、鼻水で防寒用のマスクはびしょびしょでした。「もうそろそろ戻らなければ、次のタグの回収ができない」ここまで幸運が重なり、先生方にこんなにも迷惑をかけて、結局回収できずに終わるのか、と絶望していた時、Chrisさんが「見つけた」と指を指しました。ず~っと5人で必死に探していた場所に、目の前に、探していたタグがあったのです!!最終的に24日間、漂着・漂流し続けていたタグは、奇跡が重なり、無事回収することが出来ました。23日に装着した5つ目のタグも、その後危なげなく回収することに成功しました。

 今回のフィールド調査で、色々な経験をすることができました。バイオロギングの回収までの流れも経験できたというのは勿論のこと、データを回収することがこんなに大変であること、周りの方たちの支えが無ければ到底できないこと、身に染みて学ぶことが出来ました。これからは取得したデータの解析です。支えて下さった方々へ、唯一出来る恩返しとして、論文にできるよう頑張っていきたいと思います!




2024年7月2日 初めてのフィールド調査 in 北極Part②(石原)

以前の投稿からしばらく経ちましたが、前回に引き続き、北極でのフィールド調査について書きたいと思います。前回の続編です!

前回のブログでは、ノルウェーの共同研究者と、ロングイエールビーンで豪華な夜ご飯を食べた所で終わっていました。今回は、実際にフィールド調査を行ったところまで紹介したいと思います!

研究基地のあるニューオールスンに到着した後は、すぐに研究の為の調査をするのではなく、実際のフィールドがどんなものなのかをみる為、ボートでフィールド周辺を巡りました。あいにくの曇りでしたが、雲で空まで白く覆われた風景には、ここが「北極」であることを感じさせる壮大さがありました。本当に北極に来たんだなぁと、しみじみ幸せを噛みしめていました。

次の日には早速、私の研究の対象種であるゼニガタアザラシを捕獲する為、ゼニガタアザラシが集まるエリアへボートで向かいました。そのエリアは、共同研究者のKitさんとChristianさんが長年の経験から選んだ、アザラシ捕獲に最適な場所です!浮きの付いた網を浅瀬にたらし、網にかかったアザラシをゴムボートで回収しにいきます(写真①②)。網にかかったアザラシは暴れに暴れる為、アザラシを水中からボートへ引き上げるのはかなりの重労働です。手練れのChristianさんと渡辺先生が、アザラシの引き上げをしてくださいました!

初めて野生のアザラシを目の当たりにして、感動しているのも束の間、次はアザラシに記録計を取り付ける作業です(写真④)。この作業すら初めての私は、プチパニックになっていました。

先生方から手厚いサポートを受け、無事、アザラシに記録計を装着!第1号となるアザラシを海に返しました。こっちをちょこちょこ振り返りながら海へ戻っていくアザラシを見ていると、傍にいた時間は短かったものの、わが子が巣立っていくような寂しささえ感じました。(訳:とっても可愛かったです!)

この日は合計2頭に記録計を装着し、海へ返しました。フィールド調査初日としては、十分な出来!と喜々として基地に戻りました。

しかし、記録計の取り付けだけで終わりではありません。取り付けから3日後に、アザラシから切り離される記録計を回収しなければ、データは得られません。記録計から発信されるおおよその位置情報と、記録計から受信する音を頼りに、ボートで回収に向かいました。全員が目を皿にして探してくれたおかげで、1つ目の記録計が無事、発見できました!(写真⑤⑥)初の記録計の回収です!この時はもう、張りつめていた気持ちが一気に緩みました。

しかし、残念なことに、2つ目の記録計は、ボートでは回収に行けない程遠くに移動しており、回収を諦めざるを得ませんでした。これは、データが収集できないだけではなく、何十万円もする記録計の回収ができないことを意味します。バイオロギングにこのような出来事はつきものだと、渡辺先生は励ましてくださいましたが、やりきれない思いでした。

実は、その時に回収できなかった2つ目の記録計に関して、フィールド調査の最終週にドラマが起こるのですが、これに関しては次のブログに書きたいと思います!




2024年4月30日 初めてのフィールド調査 in 北極

今年から、5年一貫性博士課程の3年生になりました、石原です。今回は、私にとっては初めてとなる、フィールド調査について書きたいと思います!

アザラシの行動や食べているエサを、アザラシに装着したビデオカメラで記録するのが、今回の調査の目的です。そしてなんと、その舞台はノルウェーのスバールバル諸島! 北緯78度にもなる、紛うことなき北極圏です! 人生初のフィールド調査が、北極になるとは夢にも思っていませんでした。

日本からスバールバル諸島へは、カタール(ドーハ)→オスロ(ノルウェー)→トロムソ(ノルウェー)を経由していかなくてはならず、丸々3日間かけて向かいました。カタール空港は圧巻のデザインで、もはや1つのテーマパークのようでした。近代的な中がガラス張りの移動用電車があり、空港内に木製のテントやベンチのある、ちょっとした公園のような施設がありました。周囲にあるカフェも、とてもオシャレでした。しかし残念ながら、とても簡単に購入できる価格ではなく、お水でさえ日本円に換算すると800円、チョコバーも500円、、ありがたいことに、機内食がどれも美味しかったので、虚しい思いはせずに済みました。

乗り換えの都合上、オスロで一泊したのですが、そこで問題が発生(というか発覚)しました。調査に必要な機械の電源がつけっぱなしで、ひとつの機械のバッテリーが切れてしまっていたのです。リチャージができない機械なので、今回の調査で使える機材の一つが無くなってしまったことと同義。一気に冷水を浴びさせられたような感覚になりました。その日は夜も心配と不安でなかなか寝付けず、夜の2時過ぎまでなかなか寝付けませんでした。次の日の朝、ホテルのビュッフェで豪華な食事をとり、くよくよしていられないと、今回の調査で出来ることを考えようと思い直しました。

オスロからトロムソ、トロムソからロングイェールビエンと乗り継ぎ、ロングイェールビエンの空港に到着した時には、真っ白の世界が広がっていました。雪化粧が施されたゴツゴツした山々が、氷の浮かぶ海の周りを囲っていて、色合いとしては殺風景のはずなのに、それを感じさせない雄大さでした。ノルウェーの共同研究者方と合流し、ロングイェールビエンのお土産屋さんやスーパーのあるところに案内してもらいました。アザラシの毛皮でできたグローブやブーツが売られていて、ザ北極!という感じのあるお土産に飢えていた私は、絶対に買ってやる!と意気込んでいたのですが、悩んでいるうちに店が閉まり、貴重なお土産散策タイムが無に帰してしまいました。夜ご飯は、ミンククジラの心臓と、スバールバルトナカイのお肉でした。ここでしか味わえないメニューが食べられて、お土産分のリベンジができました!


 

 



2024年2月22日 台湾でフィールド調査

皆様、お久しぶりです! 1年の加藤です。台湾でフィールドワークを行ってきましたので、ご報告いたします!

先月1月台湾の台東縣成功鎮に滞在し、データをとるためのタグ付けを行ってきました。私は海外に行ったことはありましたが初の台湾で自身最長の2週間の滞在...楽しみな気持ちとちょっとの不安でドキドキでした...

成功は台湾の中心都市である台北から離れた南東部に位置し、小さい街ながらも生活に必要なものがコンパクトにまとまった生活しやすい場所でした。なにより軒先でカジキを捌いている人がいたり、徒歩数分の所にフィッシュマーケットがあるなどお魚の町!という感じ。フィッシュマーケットには何度か足を運びましたが、びっくりするほどサメが揚がっておりヨシキリザメ、アオザメ、ハチワレ、アカシュモクザメなどいろいろな種類を見ることができました。そして巨大すぎるアオザメも...!

調査では約12時間ほど乗船し、延縄漁によってサメが釣れるのを待ちました。私の狙いはヨシキリザメ..! 夏に渡辺先生と徳永さんが台湾に来たときはたくさん釣れたとのこと。まだかなと待っていると、たくさん釣れるのはアオザメ! 最初は初めて見るアオザメにテンションMAXでしたが、ヨシキリザメは全然釣れないしアオザメはありがたみがないくらいに釣れるし... 結局私はヨシキリザメに出会うことはできず、残念ながら私が滞在している間には私自身がタグ付けすることは叶わずでした。これまでまだタグ付けができておらずもしかして私サメ運ない???と思いながら帰国。帰国後、まだ台湾に残っていた徳永さんが無事ロガーをつけてくれたとご報告があり、現状着実にデータが集まってきています!!! 本当に感謝...ありがとうございます!

まだまだフィールドワークに不慣れな私ですが、海に出るのはとても楽しく、そして自分でロガーをつけたいという思いで、次なるフィールドワークが楽しみで仕方ありません! こんどこそ台湾でタグ付けを! 前回のブログでもリベンジを誓っていましたが、また必ずリベンジします!

フィッシュマーケットで出会った巨大すぎるアオザメ!どう考えても私より大きかったです...

 

アオザメの計測中。残念ながらこの個体は釣り上げた時点で弱っており、ロガーはつけられませんでした。


台湾での食事は日本とは違う形式のものが多くとても新鮮でした!!

 


 

2023年11月8日 日本動物行動学会

二度目まして、修士2年の石原です!

今回は、11月3日から11月5日にかけて京都で行われた、日本動物行動学会に参加したことについて、書きたいと思います。

前回の国際学会で発表した、歯形態の内容から派生した内容で、ポスター発表を行いました。オンサイトの学会ではあるのですが、従来の印刷されたポスターではなく、サイトにアップロードしたポスター資料(口頭発表のようなスライド資料)を、パソコンで表示しながら、見に来てくれたひとたちに説明する形で行われました。行動学会なので、動画を持参している人が多く、パソコンで直ぐに見せられるというのは利点でしたが、ひとがたくさん集まっているポスターでは、字が見にくいのが難点でした。

行動学ということもあり、興味のある発表ばかりで、とても刺激になりました。水族館との連携で海棲哺乳類や海鳥の動きを研究している方もいらっしゃり、真似したい工夫はどんどんメモしました。やはり、オンラインの学会を経てからのオンサイトの学会に参加すると、もはや別物に感じました。オンサイトの学会経験者が、オンラインの学会を物足りないと言っていた気持ちが分かりました。

また、今回は京大の理学館(京都御所のそば)で行われたのですが、そのすぐそばでは「秋の古本祭り」のバザー?が開かれていて、たくさんの人が参加されていました。見るからに年季の入った古書が沢山積まれていて、文学や歴史に精通している方々にとっては、相当価値があるものなんだろうなぁと興味津々で眺めていました。(学会参加者もお昼休みに見に来ているひとが沢山いました)

11月の京都ということで、紅葉を期待していたのですが、「まだ夏ですよ」といわんばかりの緑の木々が大半を占めていました。唯一、京都御所の端っこでは紅葉がみられたので、紅葉の名所京都での景観を楽しめたと、自分に言い聞かせて帰路につきました。

早朝に訪れた京都御所にて。紅葉…?





2023年11月2日 相模湾でのサメ釣り

渡辺です。また行ってきました、相模湾のサメ調査に。今回も、三浦市小網代の遊漁船「丸十丸」をチャーターさせてもらい、外洋性サメ類の捕獲に挑戦しました。ヨシキリザメ、アオザメ、アカシュモクザメのいずれかが獲れたら、人工衛星発信器を取り付けようという計画です。

残念ながら、今回もまたターゲットは1匹も捕獲できず・・・。けれども同時にやっていた電動リールによる深海魚釣りでは、面白いものに出会えました。常連のフトツノザメに加え、エドアブラザメという珍しいサメが釣れたのです。ヘビのようなシャープな顔と、7対の鰓孔(ほとんどのサメ類は5対)が特徴的な、とても恰好いいサメです。英名はSharpnose sevengill shark。なんてわかりやすい! いつも思うのですが、動物の種名は和名よりも英名のほうが直接的でわかりやすいです。

帰港後、フトツノザメの雌個体を解剖してみると、腹の中から5つに切られたロールケーキのような黄色い物体が左右1セットずつ、合計10個出てきました。卵です。5つを包む膜は透明で、プラスチックみたいにつるつるでした。試しに卵を1つ取り出してみると、簡単に表面が破れ、どろどろしたクリーム色の液体(卵黄)が流出しました。

船長によれば、かつてはツノザメの卵は鶏卵の代替品として使われていて、たとえば伊達巻を作る際に鶏卵に混ぜられていたとか。ツノザメ1匹から、大量のどろどろした卵黄がとれることを考えれば、さもありなんと納得です。ただ、それをツノザメの卵と知って食べるのは、ちょっと勇気が要りそうですが。

というわけで、目的とした外洋性サメ類は釣れませんでしたが、面白いものが見られました。また次も挑戦します。

珍しいエドアブラザメを釣り上げた加藤氏

 

ロールケーキのようなフトツノザメの卵(5個入り1セット)

 

帰港後の集合写真

 


2023年10月3日 バイオロギングのレビュー論文を書きました

※日本バイオロギング研究会会報(2023年8月号)に渡辺が寄稿した文章です。

 バイオロギングのレビュー論文を書いてくれないかという依頼を、Annual Review of Animal Biosciences誌から受け取ったとき、私はうれしいと同時に躊躇しました。
 うれしかったのは、依頼元がAnnual Reviewシリーズの1誌だったからです。このシリーズに論文が書けるのは一流研究者の証だと勝手に思っていましたから、「ついに来たか」と感じ入りました。
 でも同時に躊躇したのは、バイオロギングのレビュー論文が既にたくさんあることを知っていたからです。ぱっと思い浮かべるだけでも、私の友人Nigel Husseyさんの書いた論文(Hussey et al. 2015 Science)があり、それと対になった論文(Kays et al. 2015 Science)があります。Ecology誌に掲載されたものもありますし(Wilmers et al. 2015 Ecology)、少し年月を遡れば、国立極地研究所で学位をとったYan Ropert-Coudertさんのもの(Ropert-Coudert and Wilson 2005 Front. Ecol. Environ.)や、カナダのSteven Cookeさんのもの(Cooke et al. 2004 Trends Ecol. Evol.)もあります。私が新しいものを書くとなると、過去の論文との差別化が難しいのは明らかです。
 あまつさえバイオロギングは手法であって、研究分野ではありません。それをレビューするとなると、どうしても学術的に深く掘り下げるのではなく、過去の研究例を広く、浅く紹介する形をとらざるを得ません。これも私が躊躇した理由の1つです。
 ところで話は変わりますが――と見せかけて変わらないのですが――最近読んだ脳科学の本によると、人は迷っているようで、実は迷っていないそうです。悩んだ末にやっと結論を出したときでも、脳の反応を実験で調べると、それよりも前に無意識のうちに決定を下しているそうです。たとえばデパートでとても素敵な、でも高価な品物を見かけたとします。買おうか買うまいか、当人としては時間をかけて、じっくり考えて決めたつもりです。けれども実は、品物を見かけた瞬間に脳は結論を出しているのです。つまり直感で「いいな」と思ったものは、長く悩んでも結論は変わらず、結局買うのです。
 私の場合も同じでした。レビュー論文の執筆依頼を受けるか受けないか、迷ったつもりになっていただけで、実はみじんも迷っていませんでした。依頼のメールを読んだ時点で、私の脳は即座に直感的に、「これは当然受けるべし」と判断を下しました。

 さて、バイオロギングのレビュー論文を書くとなると、私にはやりたいことがいくつかありました。その1つは、歴史的な視点を入れることです。過去に書かれたレビュー論文は、それぞれバイオロギングの手法で得られた最新の知見を紹介し、将来の展望を語っていました。しかるに現在使われているセンサーや技術がいつ、どこで、誰によって始められたのかという歴史的な視点が欠けており、それが私にとっては不満の種でした。
 だから私は、バイオロギングで使われる機器を大きく3つにわけ(データロガー、超音波発信器、人工衛星発信器)、それぞれについて初期の論文を引用しながら、機器の発展の歴史を紹介しました。引用文献をたどり、歴史を調べながら簡潔にまとめる作業は、私にとっては楽しい仕事でした。
 そういえば、その過程で気付いたことがあります。現在、バイオロギングで当たり前のように使われている加速度記録計、GPS記録計、ポップアップタグ、ジオロケーター、ビデオカメラ等の機器。これらが開発され、使われ始めたのは、共通して1990年代後半から2000年代の始めにかけてです。この時代こそ、先駆的な機器が次々と開発され、驚くようなデータが記録され始めた「バイオロギングの黄金時代」と言ってよいかと思います。
 つらつら思い返せば、私が大学院生として研究を始めた2002年頃は、確かにそういう時代の名残がありました。当時、東京都板橋区にあった国立極地研究所の内藤靖彦先生の研究室には、使えるかどうかもわからない珍妙なバイオロギング機器が山積みになっていました。ほとんど思い付きで新しい機器を製作し、案の定使い物にならなかった例(2軸の地磁気記録計とか!)をいくつも見ました。でも今考えれば、そのガラクタの山の中には、現在スタンダードになっている加速度記録計のような「金脈」が確かに埋もれていたのです。あの時代を思い起こすと、私は現在の自分の立場として、第2期の黄金時代が来るよう努力しなければならない責任を感じます。
 レビュー論文に話を戻しますと、バイオロギングの手法がもたらした重要な発見を紹介し、将来の展望を語るのは、私のレビュー論文においても主要な部分です。過去のレビュー論文との差別化が難しかったのは事実ですが、私は私なりに多数の論文を読み、自分の中で消化しながら書き進めました。共著者のYannis Papastamatiouさんもバイオロギングに関するおびただしい論文を読んでおり、私の作業を大いに助けてくれました。
 最後に、このレビュー論文に仕込んだ「こだわりポイント」を1つ。この論文では、読者の気を引くために、世界的に有名な文学作品の引用からイントロダクションを始めてみました。かつて、『アリスの不思議な国』の引用から始まる論文(Schmidt-Nielsen and Fange 1958 Nature)を読み、そしてそれを著者が誇りに思っていることを知り(Schmidt-Nielsen 1998 The Camel’s Nose)、いつかは私もやってやるぞと手ぐすね引いて機会を待っていたのです。今回、ついにめでたく念願成就。見ていただくとわかると思いますが、私にとってはこれしかないという会心の引用です。むろん自己満足には違いありませんが。

 というわけで、私の書いた新しいバイオロギングのレビュー論文の紹介でした。オープンアクセスですので、多くの人に読んでもらえるとうれしいです。


Watanabe YY, Papastamatiou YP (2023) Biologging and biotelemetry: tools for understanding the lives and environments of marine animals. Annu. Rev. Anim. Biosci. 11:247-267.




2023年9月23日 城ヶ島沖でサメ釣りに挑戦

初めまして! 教授の渡辺です!

先日、三浦の釣り船「丸十丸」さんの協力を得て、サメ釣りに挑戦してきました。狙うのはヨシキリザメ、アオザメなどの大物です。もちろんマリンプレデターラボとしては、バイオロギングの機器が欠かせません。サメの背びれに取り付けて回遊パターンを追跡するための人工衛星発信器を持って行きました。

風が強く、あいにくの天気でしたが、船長の判断で予定通り出港し、城ヶ島(三浦半島の先端にある島です)の沖で作戦開始。一本釣りの竿を右舷から二本、左舷から二本、合わせて四本横に出します。サバを一匹まるごと餌にして釣り針にかけ、重りとともに海に沈め、その先に繋がったロープの一か所を、書類用のクリップで竿の先端に付けます。こうしておけば、サメがかかってロープを引っ張った際、クリップが外れてロープが一直線になり、甲板から人の手でロープを手繰り寄せることができます。サメが大きくてパワフルだった場合、ロープをウインチで巻き上げることもできます。なんてわくわくする仕掛けでしょう!

残念ながら、この日はアタリらしいアタリもなく、サメは一匹も釣れませんでした。でも天候や釣果とは裏腹に、私の気分は晴れ晴れ。だって、これでいいのです。船長の協力を得て、地元の海で初めてのサメ釣りに挑戦し、いずれは釣れるだろうという感触がつかめたのだから。

第二回も近いうちにやります。

 

海上自衛隊の潜水艦が演習をしていました。こんな光景が見られるのは横須賀港のある三浦半島周辺くらいでしょう。


同行した大学院生の加藤氏(左)と徳永氏(右)。サメ釣りはボウズでしたが、合間の深海魚釣りで加藤氏がメダイをゲット。刺身にしておいしくいただきました。

 

帰港後のコーヒーフロート。このために船に乗るようなものです。

 


 

2023年9月11日 静岡県伊豆でフィールド調査

はじめまして!D1の加藤です!

今回は8月末に行った伊豆・富戸漁港での調査についてご紹介いたします!

静岡県の東伊豆に位置する富戸漁港では定置網漁が行われており、渡辺先生と徳永さん、そして今回お邪魔させていただいた漁師さんと繋いでくださった新江ノ島水族館の皆様と定置網漁の船に乗せていただきました。今年4月に入学したばかりの私にとっては初めてのフィールド調査となり、ちゃんと記録計の設定ができてるかな...ちゃんとサメに付けられるかな...と緊張しつつも、ようやく船に乗って調査ができるととても意気揚々と現地に向かいました。

定置網漁とは漁港から少し沖合に出たあたりに事前に網を仕掛けておき、この網に入った魚を水揚げする漁業です。これまで漁船に乗る機会のなかった私にとっては、初めて目の前で写真や動画なのでしか見たことのない漁を見ることができ、興奮しつつもとても貴重な経験をさせて頂いただいていると感じました。しかし...今回は定置網に目的のサメは入っておらず、残念ながら記録計を付けるには至りませんでした。

ですが、新江ノ島水族館の皆様や漁師さんなどとても素敵な方に恵まれ、また再度おいでといっていただけたので、次こそ!リベンジして、今度こそ記録計を付けデータを取りたいと思います!

 

 

 


2023年8月18日 オーストラリアで学会に参加

はじめまして!D2の石原です。
今年の7月末から一週間開催された、国際学会での様子をご紹介したいと思います。

これまで参加した学会はオンライン開催だった為、私にとっては今回が初めての対面開催の学会となりました。今回の学会はInternational Congress of Vertebrate Morphology (ICVM)という、脊椎動物の形態学に関するもので、バイオロギングと深く関わりのある行動学とは少し離れた分野の学会です。ですが、これまで「歯の形態と食餌」に関して調査してきた私にとっては学びの多い学会になると、開催地であるオーストラリア ケアンズに向かいました。

会場に着くと、その大きさにワクワクし、人の多さにドキドキしました。国際学会なので当たり前ですが、飛び交う言葉が多種多様で、英語、フランス語、スペイン語、中国語、あっちこっちから分からない単語が聞こえてきました。
ポスター発表でうまく説明ができるか不安だったのですが、いざ始まると英語を組み立てることと、質問への回答で頭がいっぱいになり、不安は直ぐに雲散しました。私の研究で度々引用させて頂いた論文の著者の方々が、ポスターに足を運んで下さったり、動物の動きを自動でトラッキング(追跡)できるソフトを教えて頂く等、多くの刺激になりました。

 

 

国際学会への参加を通じて、学会で共有できるような研究成果を持つこと、そして普段関わることのできない研究者と交流する為の言語力を持つことの重要さを、改めて痛感させられました。私は現在、一つの研究結果しか出せていませんが、国際学会に参加されていた多くの研究者のように、複数の研究内容をスムーズに共有できるようになりたいと強く思いました。

 

学会が始まる前の早朝に、カモノハシの歯形態を調査されている先生と、カタツムリの左右二型を研究されている先生に連れられ、野生のカモノハシが見られるユンガブッラ村(ケアンズから南西に車で2時間ほど)に行きました。(写真提供:中川梨花)

 


2023年8月8日 台湾でサメ調査

初めまして、D3の徳永です! 今回は、今年の6月〜7月にかけて台湾で実施したフィールドワークの模様をご紹介します。

指導教員の渡辺先生、長崎大の中村先生と共に向かったのは、台東県の成功鎮です。決して大きな町ではありませんが、目の前を黒潮が流れており、漁港には毎日たくさんの魚が水揚げされる、とても魅力的な港町です。

お昼頃に漁港に立ち寄ると、その日に獲れた魚がずらりと並べられており、自由に見て回ることができます。滞在中はカジキ類やヨシキリザメといった外洋性の魚が目立ちました。さすが黒潮、と感動していたところ、さっそくお目当てのサメを見つけました。今回の研究対象種、アオザメです。アオザメは「世界一速いサメ」と称されるサメで、体温を水温よりも高く保つことができる珍しい魚でもあります。台湾では水産資源としても価値が高く、ひとたびアオザメが獲れるとすぐに競り落とされます。このアオザメに行動記録計を取り付け、野生下での遊泳能力や体温の詳細なデータを得よう、というのが今回の目的です。そこまで頻繁に釣れるサメではありませんが、実際にその姿を目にすると、俄然期待が高まりました。

現地の共同研究者と漁師の方々の手厚いサポートのもと、手続きを済ませて漁船に乗り込みました。長丁場なのでしっかりと休息を取りつつ、その時を待ちます……が、なかなか釣れません。初日の漁も終盤に差し掛かり、船内に敗北感が漂い始めたところで、遂にアオザメの姿が! ゆっくり眺める暇はありません。弱らせないよう大急ぎで記録計を取り付けて放流し、作業は完了。船内の雰囲気は一変し、賑やかなお祭りムードとなりました。翌日には記録計の回収に成功し、記念すべき1個体目のデータを得ることができました。

行動記録計を装着したアオザメ。生きている時はその名の通り青色(藍色?)をしており、とんでもなく美しいです(写真提供:Zola Chen)

その後も記録計を取り付ける機会をうかがいました。アオザメが全く釣れない日もありましたが、合計4個体に記録計を取り付け、うち2個体からデータを得ることができました。残りの2個体については、記録計を回収できず、非常に高価な機械を失うことに...(渡辺先生すみません)。しかし、得られたデータの貴重さは言うまでもありません。特に体温については、とても面白いデータが得られました。今後はこのデータを解析し、学会や論文誌で発表する予定です。

海外でのフィールドワークは今回が初めてでしたが、様々な面で成功も失敗も経験し、研究者として大きく成長できた1ヶ月でした。現地での調査や生活を支えてくださった方々に感謝申し上げます。今回得られたデータをできるだけ早く世に出せるよう、頑張ります!

調査や日常生活をサポートしてくれたJulian(左)と私(右)。現地の共同研究者の息子さんで、年齢が近いこともあり、すぐに打ち解けました。フィールドワークは現地の方々の協力が無ければ成り立たないということを、日々実感しました。

 


 

2023年5月30日 相模湾で深海魚釣り

渡辺です。せっかく海の近い葉山キャンパスに研究室を立ち上げることができたのだから、地元で大型魚類のバイオロギング調査がしたい! そういう気持ちでいろいろな人に会いに行き、可能性を探っています。

――と、三浦市小網代(こあじろ)の遊漁船「丸十丸」の船長から連絡があり、まずは船に乗って様子を見てみないかといううれしい提案。もちろん喜んで! というわけで先日、学生の徳永氏とともに船に乗せてもらい、深海魚釣りにチャレンジしてきました。

朝7時に集合し、出港は8時前。釣り船としては遅い出発ですが、若船長(大船長の次女)いわく、「小網代の魚は寝坊だから問題ない」とのこと。科学的なエビデンスはともかくとして、釣り場が近くあっという間に着くので、出発は遅くてもいいと知りました。

夏の兆しを感じる強い日差しの下、遠くの富士山を時折仰ぎながら、昼の二時過ぎまで電動リールを操り、カゴカマスやらオニカサゴやらオオメハタやら、いろいろ釣りました。サバも釣れましたが、深海魚が目的のため、外道扱いでした。

大船長、若船長には大感謝。近いうちに一度、丸十丸をチャーターさせてもらい、ヨシキリザメなどの外洋性サメ類を捕獲して、バイオロギング機器を取り付けたいと目論んでいます。

ご機嫌の渡辺。後ろは頼もしい若船長。