研究内容

サメやカジキなどの大型魚類、アザラシなどの海生哺乳類、ペンギンなどの海鳥類、それからウミガメ類のことをまとめて「マリンプレデター(marine predator)」と私たちは呼びます。分類群はばらばらですが、体が大きく、移動範囲が広く、海洋生態系の高次捕食者であるという共通点があります。大海原を住処とするマリンプレデターは調査が難しく、生態がよくわかっていません。また、その多くは近年の人為活動の増加や環境変動によって、負の影響を受けています。そこで私たちは、マリンプレデターの生態、進化、環境との関わりを明らかにするべく、調査を進めています。

従来、マリンプレデターの行動や環境応答を現場で調べることはほぼ不可能でした。しかし最近、動物の体に計測機器を取り付ける「バイオロギング」(*)の技術が急速に発展し、それを可能にしました。私たちはこの技術を、主要な研究手法として使っています。様々なマリンプレデターの中でも、サメ類を主要な研究対象とし、国内(地元神奈川、高知、沖縄など)と国外(台湾、カナダ、オーストラリアなど)の両方で野外調査を行っています。その他に、アザラシや海鳥類の研究もしています。バイオロギングで取得したデータを、他種の文献データやリモートセンシングによる環境データなどと組み合わせて、行動パターンの背後にある生態的・進化的意義を探るのが基本的なアプローチです。気候変動を含む海洋環境の変化に対し、マリンプレデターがどのように応答するのかも、私たちの重要な研究テーマの一つです。

バイオロギングを使った研究では、既存の機器をうまく使うことも大切ですが、機器そのものを発展させることはもっと重要です。そのため、世界をあっと驚かせるデータの取得を目指し、私たちは国内のメーカーと連携して研究を進めています。

↑バイオロギングはこんな感じです。Watanabe and Papastamatiou (2023) Annu. Rev. Anim. Biosci. より。

(*)バイオロギングの歴史、現状、応用例などについては、『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』(一般向け書籍)や”Biologging and biotelemetry: tools for understanding the lives and environments of marine animals”(英語のレビュー論文)に書きました。

 

代表者

渡辺佑基(わたなべゆうき)
総合研究大学院大学統合進化科学研究センター・教授
1978年4月12日 岐阜県岐阜市生まれ

☆学歴
1991年 岐阜市立芥見小学校卒
1994年 岐阜市立藍川中学校卒
1997年 岐阜県立岐阜高等学校卒
2002年 東京大学農学部国際開発農学専修卒
2004年 東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻修士課程修了
2007年 東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻博士課程修了

☆職歴
2005年~ 日本学術振興会特別研究員DC2(東京大学海洋研究所)
2007年~ 日本学術振興会特別研究員PD(東京大学海洋研究所国際沿岸海洋研究センター)
2008年~ 国立極地研究所生物圏研究グループ助教
2015年~ 国立極地研究所生物圏研究グループ准教授

2023年~ 総合研究大学院大学統合進化科学研究センター教授

☆受賞
2007年 東京大学総長賞(博士学位論文「バイカルアザラシの潜水行動に関する研究」)
2011年 山崎賞(農業開発技術者協会表彰)
2014年 毎日出版文化賞(著作「ペンギンが教えてくれた物理のはなし」)
2015年 若手科学者賞(文部科学大臣表彰)

☆学術誌のエディター歴
2016年~2020年 Scientific Reports
2020年~ eLife

☆研究業績等
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