三浦半島共同プロジェクト

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    人の経済・社会活動が地球規模の変容をもたらす現代、その複雑な課題の解決に向けた基盤研究が切に求められています。このような課題を考察するうえで、非生物・生物のあらゆる階層・環境・人間社会が一つの集合体を成していると捉える包括的な視点が必要です。生態系はもちろんのこと、人間活動の多大な影響力の背後にある科学技術そのものの発展も、生物・非生物(人工物)を含み、様々な要素間の相互作用にもとづいています。

    複雑適応系進化学研究部門のプロジェクトでは、複雑適応系(complex adaptive system; CAS)の概念にならい、各要素単体ではなく、多様な要素・階層間の相互関係・非線形のダイナミクスに着目し、共生・共働を促す新しい知識基盤の提供を目指します。三浦半島共同プロジェクトでは、複雑適応系進化学研究部門の研究の中でも特に三浦半島における CAS の視点を縫合した研究を支援します。



過去および現在進行中の三浦半島共同プロジェクト

  • 三浦半島でのイヌの変遷を古代DNAから明らかにする


    三浦半島におけるイヌと環境、およびヒトとの関係を古代DNAから推定する

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    三浦半島出土のイヌの頭骨(左)とDNAを抽出したイヌの歯(右)

     イヌは縄文時代に日本列島に渡来しましたが、実は日本最古のイヌの骨は三浦半島(夏島貝塚: 横須賀市)から出土しています。その後もイヌは三浦半島でヒトと関係を築き生活してきました。そのため、三浦半島の遺跡からはイヌの骨や歯などが出土しています。三浦半島の過去のイヌはどのようなイヌであったか?本研究ではこの疑問に対する答えを古代DNA技術により明らかにしようとしています。
     近年の技術の発展により、遺跡から出土した骨や歯からDNA(古代DNA)を抽出してそのゲノム情報を解読できるようになりました。古代DNA研究を行うためには専用の施設が必要であり、そのような施設は日本国内に数カ所しかありません。総合研究大学院大学の葉山キャンパスには古代DNA施設があり、遺跡出土の骨からダイレクトに情報を得ることができます。本研究ではこの方法を用いて、三浦半島のイヌがどのように変遷してきたかを調べています。(寺井洋平)

  • 三浦半島の水性生物の生き残り戦略


    三浦半島の環境との相互作用を介した水性生物の進化

     三浦半島の海に行くと、多くの生き物が見られます。これらの生き物が三浦半島の環境でどのように生活して子孫を残し、生き残っているのか?この疑問をウミウシと海から河川を遡上する海水魚を用いて明らかにしようとしています。


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    ウミウシ
     潮が引いた磯に行くと、色鮮やかなウミウシを見ることができます。このようなウミウシの1部は食べたものを使って体を守っていることが知られています。しかし、大部分のウミウシの種は何を食べているか知られていません。この研究では最近発達したDNA解析技術を用いて、ウミウシが生息している環境の何を食べているのかを明らかにしようとしています。また食べているものを使って体を守っているなら、体の防御と体色の進化の関係も知りたいです。


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    河川を遡る海水魚
     三浦半島の河川を見てみると、多くの魚がいることに気が付きます。大量のボラの群はよく見られますし、稀に「コイかな?」と思うとスズキだったりもします。実は河川で見られる魚の多くが海水魚で河川を遡って淡水域にまで進出しています。田越川だけでも、ボラ、マハゼ、クサフグ(写真)、クロダイ、ヒイラギ、コトヒキなどを淡水域でみることができます。海水魚が何のために河川を遡り、どのようにして淡水の環境で生きているのかはよく知られていません。この研究ではこれらの疑問を明らかにしようとしています。(寺井洋平)


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  • キャベツウニ養殖技術:開発の歴史・社会経済循環


    キャベツウニを巡る養殖技術の開発の歴史と社会経済循環のしくみ

     本研究は、以下の3点の調査を進め、今後の研究課題の発掘や、進化科学的な視点から現場への社会的な貢献ができる可能性を探っています。
    1)「キャベツウニ」養殖開発を巡る現状の調査:神奈川県水産技術センター等
    2)ムラサキウニの生物学的調査研究:ミクロからマクロの生物学(生殖巣、細胞、磯焼け)
    3)キャベツウニのブランディング化、市場流通の方策、社会経済的な取り組み等


     神奈川県水産技術センター、主任研究員の臼井一茂さんに見学させていただきました。

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    水産技術センターのキャベツウニ水槽(展示用,左)と“ウニタワー”での養殖の様子(右)


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    臼井さん手作りのウニの殻コレクション(左)と試作中のランプの塔(右)
     臼井さんによると、「ウニの養殖はそれぞれの地域に適したやり方があり、キャベツウニは三浦半島ならではのもの。養殖技術は発展途上で、地域の自然環境の保全や温暖化対策も急務。」とのことです。ウニの殻のランプはまさに芸術作品で、このような有効利用もSDGsの一端を担うのは間違いないでしょう。臼井さん、貴重なお話、ありがとうございました。(田辺秀之)

  • 三浦半島の遺跡に暮らした人びと


    三浦半島における先史時代人類の生業活動と古環境

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     三浦半島では約100年にわたり多くの考古学調査が行われてきました。貝塚の調査では、縄文時代の古東京湾、相模湾の海水面変動や古環境が研究されました。弥生時代にはいち早く稲作が始まり、逗子の池子に大きな集落が造られました。三浦半島の海岸部の海蝕洞窟は海産物を利用する拠点として使われました。人骨、動物骨、骨・角・貝製品など豊富な出土遺物から過去の資源環境と人類の活動を知ることができる貴重なフィールドです。統合進化学研究センターの進化学的な研究視点を生かし、三浦半島の遺跡を研究している博物館・大学・民間の研究者の研究拠点となることをめざします。 (本郷一美)


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    (左)三浦半島南部の海食洞穴(図:杉山浩平)(右)白石洞穴内部から相模湾をのぞむ(写真:杉山浩平)


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    間口洞窟から出土した卜骨(弥生時代)、卜甲(古墳時代)(写真:佐藤孝雄)


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    若宮大路周辺遺跡から出土した中世のウマ(写真:佐藤孝雄)

  • 1950年代の三浦半島:マグロと放射線


    マグロと放射線と三浦半島

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    第七事代丸(三崎港にて;1953年)(森田喜一氏所蔵)

     かつお漁船として三崎の事代漁業によって建造された第七事代丸は、まぐろ船に改造され、1953年に焼津港所属の第五福竜丸となりました。


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    三崎港での船体検査の様子(森田喜一氏所蔵)


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    三崎保健所の「合格証」

     放射能検査で異常なしとされた魚体に貼り付けられました。『ビキニ事件三浦の記録』(三浦市1996; p.35より)



     本プロジェクトでは、三浦半島と放射線の歴史を研究しています。1954年、マーシャル諸島のビキニ環礁で行われた米国の水爆実験「ブラボー」により、多くの漁船が被災しました。全国的にもっとも知られている被災漁船は焼津の第五福竜丸ですが、鮪漁の一大根拠地であった三崎でも1954年(3月-12月)通算の廃棄隻数は150超、廃棄数量は5万2〜3千貫(200トン弱)にのぼり、甚大な被害を受けました(廃棄慰謝料の額は全国一位)。その一方で、1956年には武山に原子力研究所を誘致するなど半島は原子力の平和利用キャンペーンにも大きく影響を受けました。
     現在はその地域の記録(日誌、書簡、町内ポスターなど)を集めるところから始めています。(飯田香穂里)

  • チョウ類における感覚の複合的適応


    三浦半島に生息する多様な訪花行動を示すチョウ類における視覚と嗅覚の複合的適応

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     三浦半島には、里山・海岸・森林など異なる生態系があります。この異なる環境に生息するアゲハチョウ類を対象に、その視覚と嗅覚の多様性と適応を行動生態・神経行動・分子進化学的な手法を用いて明らかにします。(木下充代)


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    三浦半島の里山風景

  • 三浦半島沖における外洋性大型魚類の来遊状況と行動生態


    三浦半島沖における外洋性大型魚類の来遊状況と行動生態

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    定置網漁船から望む三浦半島(横須賀市)


    本プロジェクトでは、地元の漁業者や遊漁船業者の方々の協力を得て、三浦半島沖に来遊する外洋性大型魚類、とりわけサメ類の行動生態を研究しています。三浦半島は本州から太平洋に突き出ており、黒潮の本流にも近いことから、様々な外洋性大型魚類が来遊します。しかし、どの時期にどこから来てどこに行くのかは、ほとんどわかっていません。そこで、アオザメ、ヨシキリザメ、アカシュモクザメなどのサメ類を捕獲し、人工衛星発信器を取り付けて放流し、回遊パターンや環境要因(水温、海流など)との関わりを調べています。(渡辺佑基)


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    相模湾サメ調査