昆虫を含む多くの動物は、成体へと至る過程で「変態」という発生学的プロセスを経て、ボディープランをダイナミックに変化させます。変態を介した新たなボディープランの獲得には、変態後の体を制御する神経系の再編成が必要となります。ショウジョウバエやハチなどの完全変態昆虫では、蛹期に起こる神経系の大規模な再編成を経て、成虫としての神経系を獲得します。その一方、蛹期を持たない不完全変態昆虫は大規模な神経系の構造的改変を経ずに成虫になりますが、完全変態昆虫の場合と同様、幼虫期には見せなかった配偶行動などの成虫特異的な行動を示すようになります。この新規な行動の獲得には、神経回路の構造的・機能的再編成が必要だと考えられますが、それがいつ、どの程度の規模で、どのような分子・細胞メカニズムにより引き起こされるのかは全く明らかになっていません。

当研究室では、原始的な不完全変態昆虫を材料に、変態に付随して起こるであろう神経回路の構造的・機能的再編成の分子機構や機能的意義を解明することを目的に研究を進めています。主な実験材料として、遺伝子導入や遺伝子編集などの遺伝学的手法が適用可能な数少ない不完全変態昆虫であるコオロギをもちいています。成虫となった昆虫が示す闘争行動や配偶行動などの成虫特異的・性特異的な社会行動に着目し、これらを司ると予想される性的二型神経回路をモデルに、その分子・発生学的メカニズムや、神経回路の発達と行動獲得との関係について調査しています。




  • 2023.08.10 ホームページを公開しました